すらすら租税法研究ノート。

租税法に関する勉強と思考を書きます。

一般に公正妥当と認められる会計処理の基準、って?

さて、本日の題材は中井稔教授の「企業課税の事例研究」です。

企業課税の事例研究

企業課税の事例研究


中井教授は元日本興業銀行の経理部長を務めた方。
あの有名な貸倒損失に絡む「興銀事件」で
国側敗訴の最高裁判決を勝ち取っております。

現在は京都大学で教えているそうですね。


中井教授は、法人税法22条第4項に定められている
益金損金の算出過程方法である
「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に
ついて、横領した金員の損害賠償請求権の
益金算入時期について、論じています。


いわく、判決(高裁ですが)では、
「権利確定の時期は基本的に法的基準によって判断・・
そのことで、法的安定性と課税の公平性が担保される」
「債務者の資力等の経済的観点から債権の実現
(債務の履行)可能性を判断するのは妥当ではない」
との判決趣旨になっております。


これに対し、中井教授は
「法的基準ではなく、経済的観点に従うと、なにゆえ
法的安定性や課税の安定性が損なわれるか理解不能」
と厳しく批判しております。


これを踏まえまして、私が考えるに、
「経済的観点」によりますと、財務報告作成者(=課税所得計算者)の見積りによることとなり、恣意的な見積りにより
課税所得計算を操作できる可能性がある以上、
やはり裁判所の判断としては、(見積りによらず)
法的な「確定」をもって公平性を担保するというのが
妥当ではないか、と。


課税所得計算は、企業会計上の見積りを基礎とし、
それに別段の定めによる一定の調整を加えて
算出することにより成り立っています。


企業会計上の見積りの妥当性は、
もちろん中井教授の主張する経済的観点に基づき
出発し、次に、企業の内部統制によりコントロールされ
最終的に会計監査人の監査により担保されますが、
その目的は投資家の意思決定への有用性であり、
公平を旨とする課税所得計算とは
全く別物であります。


やはり、両者は別々に考えるべきでありましょう。
そのため、申告調整が複雑怪奇になっている現状は
つらいものが、あるのですが・・