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すらすら租税法研究ノート。

租税法に関する勉強と思考を書きます。

研究ノート 保険医療にかかる控除対象外消費税について。

保険医療は消費税法上、社会政策上の配慮を理由として「非課税」とされている。
疾病という状況にある国民に税負担を求めるのは適切ではない、という立法者の政策判断によるものである。
しかし、保険医療を提供する医療機関は、消費税非課税の効果として自らの課税仕入(物品仕入れや医療機器の設備投資)について仕入税額控除を行うことができず、自らの費用として負担することを余儀なくされている。

「医療サービスというのは保険医療に関しては非課税とされておりますので、これについては仕入れ税額控除ができないという仕組みになっています。従って、医療機関の方々が医療機器ですとか建物などの仕入れを行われますと、仕入れにかかってくる消費税については基本的に価格に上乗せして転嫁をしていただくというのが基本的な考え方になるわけですが、保険医療の場合は、診療報酬という公定価格ですので、医療機関の方々が自由に値段を決めて転嫁するというわけにはいかないという特殊性があります」

住澤整「税制抜本改革における消費税法の改正について」租税研究、759号、2014年1月
財務省主税局税制第二課長)

 財務省の住澤税制第二課長は、社会政策上の配慮から非課税となった医療について、消費者(医療サービスの受益者)に対して控除対象外消費税を転嫁することを「基本的な考え方」としていると述べている。控除対象外消費税という「税ではないもの」を医療サービスの受益者へ転嫁してしまえば、医療サービスの価格はその転嫁分だけ上昇し、立法者が「社会政策上の配慮」として非課税とした効果が消えてしまう(社会政策上の配慮の無効化)。保険医療の場合は上記引用で述べられているとおり価格は法令により公定されているため、控除対象外消費税を転嫁することはできない。よって、保険医療の場合は控除対象外消費税の転嫁による「社会政策上の配慮の無効化」は生じない。*1
 では、「社会政策上の配慮」から消費税が非課税とされている他の項目はどうなっているか検討する。保険医療・介護サービスなどは公定価格であるのに対し、身体障害者用物品、学校教育授業料のうち私立学校のもの、住宅の貸付け(借家・アパートの家賃)などの価格は公定されていない。つまり、後者のグループに属する資産の譲渡等については、納税義務者である事業者が価格に控除対象外消費税を上乗せすることが可能である。立法者が、社会政策上の配慮から消費税を非課税とし、その財・サービスの価格を低く抑えようとしたことが無効化されてしまう可能性がある。むしろ、価格に上乗せされた控除対象外消費税は税として国庫に納付されるわけではないため、担税者であるとされる消費者にとっては不明朗な結果となる。

*1:この仕組みにより、保険医療の場合、窓口で診療を受ける消費者は直接的に消費税を負担することが無いことに加え、医療機関から控除対象外消費税を転嫁されて間接的に負担することも無い。しかし、消費税制度導入時及び引上げ時に、医療機関の控除対象外消費税の負担に相当する分として診療報酬が引き上げられており、これは結局、健康保険料の負担増加、他の税目からの振替(あるいは公債の発行)により賄われることから、間接的に国民負担となる。どのような手段・政策により保険医療を「消費税非課税」とするかは立法(国会)の裁量であると考えられ、本論の主題とは直接の関連は無いため、ここではこの指摘に止める。