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すらすら租税法研究ノート。

租税法に関する勉強と思考を書きます。

相互タクシー増資高額払込事件(福井地裁平成13年1月17日)

1.事実
 納税者X(相互タクシー株式会社。同族会社、原告)は、平成5年12月、Xに対する借入金等で債務超過状態であった訴外B社 に対し、額面50円の株式を1株100万にて5万株余り引き受け、段階的に計529億円を払い込んだ(増資後もB社は債務超過状態のままである。なお、増資払込金はXからの借入金の返済に充てられた)。
 Xは、増資払込により取得したB社株式(Xは取得原価529億円)を訴外Pに1億6千万円で売却し、527億4千万円の株式売却損を計上した。
 また、これとは別に、Xは保有する上場有価証券を訴外Cに579億円で売却し売却益を計上した 。
 X社は上記の取引等に基づき、株式売却損約527億円を損金の額、上場有価証券売却益を益金の額に算入する等として課税所得を計算した結果、平成6年3月期が15億円の欠損金であるとの法人税の確定申告を行った。
 これに対し、税務署長Yは、株式売却損約527億円を損金に算入するのは誤りであり、法人税法37条に規定する寄附金に該当するとして損金算入限度額を超える524億円あまりを所得に加算する法人税法の更正処分及び重加算税並びに過少申告加算税の賦課決定処分を行った。
 納税者Xは、適法な不服申立手続を経て、税務署長Yの更正処分等の取消を求めて出訴した。

2.争点
 Xが債務超過の子会社B社に対して行った本件増資払込金のうち、その額面金額50円を超える金額約528億円は法人税法37条に規定する寄附金に当たるか 。 


3.納税者(原告)Xの主張
 法37条⑥に規定する寄附金は借用概念であって、民法上の贈与と実質的に同一である。また、商法上、適法に行われた資本取引である増資払込から損益は生じ得ない。企業会計原則によれば、増資により取得した有価証券の取得原価は払込金額に付随費用を加算したものとなる。増資払込金額の決定に当たり時価を基準としなければならないとする法律上、企業会計原則上の制約は無いから、増資払込金額について時価を問題とされない。
以上から、本件増資払込金が法人税法上の寄附金とされる余地はなく、税務署長Yの更正処分等は違法である。

4.税務署長(被告・国)Yの主張
 法37条に規定する寄附金は私法上の法形式ではなく、当該行為が利益処分性を有するか否かという実質によって判断されるべきである。同条⑥が名義を問わないこと、同条⑦が実質的な贈与を意味することから、寄附金は民法上の贈与に限定されない、税法上の固有概念と解すべきである。
 また、増資払込が商法上、適法、有効かつ正当な取引であるか、違法、無効かつ不当な取引であるかということは、寄附金に当たるか否かは無関係であるから、法律や企業会計原則上の制約に反しない適法な増資払込であっても、寄附金と認めることは可能である。
 以上から、税務署長Yの更正処分等は適法である。

5.裁判所の判断
 納税者X請求棄却。

 ……法37条に定める寄附金の損金不算入の制度の趣旨は、寄附金もまた法人の純資産の減少であるが、法人が支出した寄附金の額の全額が無条件で損金となるものとすると、その寄附金に対応する分だけ当該法人の納付すべき法人税額が減少し、その寄附金は国において負担したのと同様の結果になることから、これを排除することにあると解される。そして、寄附金の意義について、法37条⑥は「寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」と規定しており、また、同条⑦は、「実質的に贈与又は無償の供与」と規定していることからすると、同条⑥にいう「贈与又は無償の供与」とは、民法上の贈与である必要はなく、資産又は経済的利益を対価なく他に移転する行為であれば足りるというべきである。
 もっとも、右「対価」の有無は、移転された資産又は経済的利益との金額的な評価、価額のみによって決すべきものではなく、当該取引に経済取引として十分に首肯し得る合理的理由がある場合には、実質的に右「対価」はあるというべきである。
 ……株式は会社財産に対する割合的持分の性質を有し、株主は会社の純資産を株主保有割合に応じて間接的に保有するものであるから、増資会社(訴外B)が債務超過の場合に、新株を発行しても増資会社の債務超過額を減少させるにとどまるときは、増資払込金は増資会社の純資産を増加させることにはならず、したがって、新株式の価格は理論上はゼロ円となる。
(事実認定によると原告Xは商法上、適法に訴外Bに対し払込を行っているが)本件増資払込みよる現実の出損があったとしても、法37条の解釈、適用上、本件増資払込金の中に寄附金に当たる部分がある場合には、当該部分は法人税法上の評価としては(有価証券の取得原価を構成する)「払い込んだ金額」には当たらない……(法37条は「別段の定め」であり、公正処理基準(商法や企業会計原則上の取扱い)にかかわらず適用される)。原告の会計処理上、本件増資払込金の全額を有価証券勘定に計上したからといって、右原告の会計処理上の扱いに法人税法上の法的評価が拘束される理由はない。
本件増資払込は、後に原告がCに上場株式を売却することによって生ずる有価証券売却益に見合う株式譲渡損を発生させ、右有価証券売却益に対する法人税の課税を回避することを目的としたことは明らかであり、本件株式を額面金額かつ発行価額である一株当たり50円を超える額で引き受けて払い込んだことに経済取引として十分に首肯し得る合理性は認められないというべきである。

 本件Yの更正処分等は適法であり、Xの請求はいずれも理由がないとし棄却された。

 その後、納税者Xは控訴したが、名古屋高裁(平成14年5月15日)は第一審判決を維持し、控訴棄却。Xはさらに上告及び上告受理申立をしたが、最高裁(平成14年10月15日)は棄却・不受理決定し、納税者Xの敗訴が確定した。

6.評釈
 判決に賛成する。
 裁判所は、法解釈として確立している寄附金の趣旨と解釈を述べたうえ、理論上の価格がゼロである株式を取得するために529億円を払い込みしたことは、別件の上場株式の売却益と本件増資払込による株式売却益の相殺による租税回避が目的であり、他に経済取引としての合理性は存在せず、対価の無い「資産又は経済的利益の無償の供与」として法37条の寄附金に該当するとした税務署長の課税処分の適法性を認めた。
本判決から読み取られる事実認定から、理論的な価値がゼロである株式しか取得できないにもかかわらず行われた著しく高額の増資払込に、なんら経済取引としての合理性が存在しないことは明らかであり、裁判所の結論は妥当であると考えられる。ただし、寄附金に該当するという結論を導くために「租税回避の意図の存在」ではなく、「経済的合理性の不存在」を理由としていることに留意が必要である。経済的合理性が存在すれば、寄附金の要件には該当せず、結果的に租税回避が達成されたとしても寄附金認定されることは無いと考えられる。
また、Xが主張するとおり、商法上または企業会計原則上、増資払込金額の制約はなんら存在しないが、寄附金の要件を定めた法37条は別段の定めであり、別段の定めがある場合、課税所得計算上はその計算規定が優先するのであり(法22条)、商法や企業会計の計算規定は受け入れられないのは当然である。
 なお、本件は平成13年度商法改正により廃止された額面株式制度が存在した旧商法時代の裁判であり、額面50円を超える金額について、税務署長Yが行った寄附金であるとの更正処分を適法としたものである。現行の会社法にも額面株式制度は存在せず、商法(会社法)上の制度への適合性の有無は法人税法上の課税所得計算(寄附金認定)には関係しないものであることから、更正処分のうち、額面50円の部分について寄附金としなかった部分には疑問が感じられる。増資後も訴外B社は債務超過状態で株式価値はゼロ円であると判決文中でも判断されており、額面50円を寄附金の額から控除すべきではないと考える。




7.追加検討事項
7-1 現行の法人税法ではXとBは完全支配関係にあり、グループ法人税制が適用される。仮に、現行法下で上記の取引が行われた場合、課税関係はどのようになるか。




7-2 同様の事案である日本スリーエス事件(東京地裁平成12年11月30日)では、法132条の同族会社の行為計算否認規定に基づいて更正処分が行われている。本件との違いはどこにあるか。

租税判例百選 第6版 (別冊ジュリスト228号)

租税判例百選 第6版 (別冊ジュリスト228号)

租税判例百選評釈 №58 事前確定届出給与(東京地裁平成24年10月9日)

1.事実
 工具製造を業とする株式会社X(納税者・原告、事業年度10月1日~9月30日)は、平成20年11月26日開催の定時株主総会で役員賞与を冬季・夏季それぞれ代表取締役Aに500万円、取締役Bに対し200万円と決議した。12月1日~9日にその役員に冬季賞与としてAに500万円、Bに200万円を支給した。12月22日、Xは所轄税務署長Yに対し、株主総会決議に基づいて「事前確定届出給与に関する届出」を行った。
 平成21年7月6日、Xは臨時株主総会を開催し、業績悪化を理由として夏季賞与の額をA250万円、B100万円に減額し、7月15日に各金員を支給した。しかし、XはYに対し法令69条③に定める期限までに「事前確定届出給与に関する変更届出」を行わなかった。
 Xは平成21年9月期分について、12月1日・9日に支給した冬季賞与500万円・200万円を損金の額に算入して法定期限内に確定申告を行った 。*1
 これに対し、Yは、冬季賞与500万円・200万円について損金の額に算入できないとする更正処分等を行った。納税者Xは、これを不服とし、適法な不服申立手続を経て、税務署長Yの更正処分等の取消を求めて出訴した。

2.争点
 XがYに届出した所定の時期に確定額を支給する旨の事前の定めに基づいて、一の職務執行期間中に複数回にわたり役員賞与を支給した場合、個々の支給(冬季賞与500万円・200万円)ごとに「事前確定届出給与」に該当するものとして損金に算入できるか。

3.納税者(原告)Xの主張
 役員給与が事前確定届出給与から実際の支給額が減額された場合は、損金の額が減額され、法人の課税所得は増額されるのであるから、損金算入を許したとしても課税の公平を害することや租税回避の弊害を生ずることはないのであって、所轄税務署長に届出がされた支給額と実際の支給額が異なる場合に、実際の支給額が減額された場合であっても、事前確定届出給与に該当しないとすることは、法人税法の解釈を誤るものである。
 税務署長Yは、役員給与は一般的に定時株主総会から次の定時株主総会までの間の役員の職務執行の対価であると主張するが、事業年度単位、半期単位、四半期単位又は法人独自の期間を職務執行期間とする例が少なからずあり、一般的ではない場合を排除する理由は明らかでない。役員給与について一の職務執行期間中に複数回にわたる支給がされた場合には、当該役員給与の支給が所轄税務署長に届出された事前の定めのとおりにされたか否かは、職務執行期間を一つの単位として判定すべきものではなく、個々の支給ごとに判定すべきものである。
以上から、冬季賞与500万円・200万円は事前確定届出給与に該当し、税務署長Yの更正処分等は違法である。

4.税務署長(被告・国)Yの主張
 事前確定届出給与の届出をしており、実際の役員給与の支給額が増額された場合はもちろん、減額された場合であっても、事前確定届出給与に該当し損金算入が許されるとすれば、利益の額に応じ支給額を決定して法人の所得の金額を操作することが可能となり、役員給与の恣意性を排除するという法人税法34条の趣旨が没却されることとなるから、役員給与が事前確定届出に該当するためには、当該役員給与の支給が所轄税務署長に届出がされた事前の定めのとおりにされたことを要し、実際の支給額が減額された場合であっても、事前確定届出給与に該当しない。
 役員給与は役員の職務執行の対価であり、役員の選任、任期、報酬等にかかる会社法の規定によれば、役員の給与は一般的に定時株主総会から次の定時株主総会までの間の職務執行の対価であるということができる。そうすると、一の職務執行期間中に複数回にわたる支給がされた場合には、当該役員給与の支給が所轄税務署長に届出がされた事前の定めのとおりにされたか否かは職務執行期間を一つの単位として判定すべきものであって、当該役員給与は、職務執行期間に係る全ての支給が事前の定めのとおりにされたときに初めて事前確定届出給与に該当する。
 以上から、冬季賞与500万円・200万円は事前確定届出給与に該当せず、税務署長Yの更正処分等は適法である。

5.裁判所の判断
 納税者X請求棄却。

 「役員給与のうち定期同額給与等(①定期同額給与②事前確定届出給与③利益連動給与)のいずれにも該当しないものの額は損金の額に算入しないこととされたのは、法人と役員の関係に顧みると、役員給与の額を無制限に損金の額に算入することとすれば、その支給額をほしいままに決定し、法人の所得の金額を殊更に少なくすることにより、法人の課税を回避するなどの弊害を生ずるおそれがあり、課税の公平を害することになる……事前確定届出給与の額について損金の額に算入することとされたのは、事前確定届出給与が、支給時期及び支給額が株主総会等により事前に確定的に定められ、その事前の定めに基づいて支給する給与(カッコ内省略)であり、政令の定めるところにより納税地の所轄税務署長に事前の定めの内容に関する届出がされたものであることからすれば、その支給については上記のような役員給与の支給の恣意性が排除されており、その額を損金の額に算入することとしても課税の公平を害することはないと判断されるためである……内国法人がその役員に対してその役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨の事前の定めに基づいて支給する給与について一の職務執行期間中に複数回にわたる支給がされた場合に、当該役員給与の支給が所轄税務署長に届出がされた事前の定めのとおりにされたか否かは、特別の事情のない限り、個々の支給ごとに判定すべきものではなく、当該職務執行期間の全期間を一個の単位として判定すべきであって、当該職務執行期間に係る当初事業年度又は翌事業年度における全ての支給が事前の定めのとおりにされたものであるときに限り、当該役員給与の支給は事前の定めのとおりにされたこととなり、当該職務執行期間に係る当初事業年度又は翌事業年度における支給中に1回でも事前の定めのとおりにされたものではないものがあるときには、当該役員給与の支給は全体として事前の定めのとおりにされなかったこととなると解するのが相当である……個々の支給ごとに判定すべきものであるとすれば、事前の定めに複数回にわたる支給を定めておき、その後、個々の支給を事前の定めのとおりにするか否かを選択して損金の額をほしいままに決定し、法人の所得の金額を殊更に少なくすることにより、法人税の課税を回避するなどの弊害が生ずるおそれがないということはできず、課税の公平を害することになる」(カッコ内引用者補記)
 
 本件Yの更正処分等は適法であり、Xの請求はいずれも理由がないとし棄却された。

 その後、納税者Xは控訴したが、東京高裁(平成25年3月14日)は第一審判決を維持し、控訴棄却。納税者Xの敗訴が確定した。

6.評釈
 判決に賛成する。
 現行法人税法の解釈論としては、裁判所が示した結論は概ね妥当なものであると考えられるため、評釈の中で結論についてあらためて繰り返すことはしない。
ただし、裁判における議論から、いくつか現行法の役員給与の損金不算入制度の問題点が明らかになっていると考えられる。以下、①業績悪化事由が発生した場合に、定期同額給与と事前確定届出給与という並列した制度間で取扱いの衡平等に疑問がある点②国税庁が発信している事業年度を跨いで事前届出と異なる額を支給した場合の緩和的な通達解釈は租税法律主義の点から疑義がある点③職務執行期間と複数回支給される事前確定届出給与の対応関係の特別な事情の3点について論じることとする。

①業績悪化事由における取扱いの衡平等
 一般に、事前に決定した役員給与につき、減額を行おうとするのは法人の業績が悪化した場合であると考えられる。
 法人税法施行令においても、定期同額給与の場合は法令69条①1ハ、事前確定届出給与については法令69条④2に業績悪化事由によって減額改定した場合でも役員給与を損金に算入できる旨の規定が設けられている。ただし、定期同額給与については何ら手続的規定が無いのに対し、事前確定届出給与については所轄税務署長への届出が必要とされる。業績悪化事由に該当するかどうかの解釈について、国税庁「役員給与に関するQ&A」(平成20年12月、平成24年12月改訂)において「会社の経営上、役員給与を減額せざるを得ないような客観的な事情があるかどうかで判定する」とされており、その具体例について3つの例示が示されている。
 事前確定届出給与については、客観的な業績悪化事由が存在したとしても、所轄税務署長への届出という手続規定を満たさないといっさい損金算入が受けられないという納税者にとって、いささか酷な結果となるケースも存在するとも考えられる。定期同額給与については何ら手続的規定が設けられていないこと(業績悪化事由について何らかの書類を保存する義務も存在しない)と比較すると、制度間で衡平を欠くのではないだろうか。
 また、現行制度においては、定期同額給与のみを選択している法人が、業績悪化事由があるとして恣意的に役員給与を操作したとしても、法令ではなんら手続的規定が無いため業績悪化事由の存在の有無という事実認定をめぐって納税者と課税当局の間で紛争が起きることも考えられる。
 立法論となるが、事前確定届出給与について変更届出が無かった場合の「やむを得ない場合」の解釈を災害等に限定しない、定期同額給与の場合の業績悪化事由について何らかの書類保存義務を納税者に義務付けるなど、法的安定性の確保・制度間の衡平の確保を目的とした改正の要否が議論されるべきであろう。

②事業年度を跨いで事前確定届出給与を支給した場合の取扱い
 本判決においては役員の職務執行期間は、定時株主総会から次の定時株主総会であるとしており(法基通9-2-16)、これは会社法からの借用概念であろう。*2一般に、定時株主総会は事業年度終了後、3ヶ月以内に開催される(会社法296条、124条)ことから、職務執行期間は事業年度とは一致せず、複数の事業年度に跨ることとなる。
そのため、事前確定届出給与でも、事業年度を跨いで支給されるケースも考えられることから、国税庁はホームページ上で、一種の緩和的な解釈としていったん届出した確定額が複数の事業年度に支給される場合に、先行事業年度に支給した役員給与が確定額どおりであるが、翌事業年度に支給した役員給与が確定額から変更された場合は、納税者の有利性や事務上の便宜を考えて先行事業年度の分は損金に算入できるとの見解を通達の趣旨説明という形で公表している。この緩和的な解釈公表に対し、同一事業年度内において一部でも確定届出と異なる額の役員給与を支給した場合は、その全額が損金に算入されないとした本判決の結論と取扱いが異なることとなるが、法令の規定によらず、このような緩和解釈を示すことは租税法律主義の観点からみて適切ではないとの指摘がなされている。*3
 筆者としても、国税庁が、ホームページでの通達の趣旨説明という法令の規定によらない方法で緩和的な解釈を示すことは、租税法律主義の観点から適切ではないと考える。政令で明確化するなどの手当てが必要ではないだろうか。

③職務執行期間を区分する特別な事情
 判決では、法基通9-2-14(事前確定届出給与の意義)の趣旨説明をそのまま引用し、一般的に役員の職務執行期間は定時株主総会から次の定時株主総会までであり、この期間に複数回の支給がある場合には、当該職務執行期間を一つの単位として判定すべきであるとしている。ただし、特別な事情が存在する場合は、例えば半年・四半期毎にそれぞれの支給額を対応させるなど、その判定の単位が異なることもあるが、Xにはその特別な事情は存在しないとしてその主張を斥けている。
 私的自治の原則から、それぞれの法人が役員給与をどのような期間に対応させて支給するかは自由である。仮に、法人が3か月など短期間毎に事前確定届出給与を支給する旨の届出をしようとした場合、法定様式がそれに対応していないからという理由でこれを所轄税務署長が拒否することはできないのではないかと考えられる。*4一般に、職務執行期間を短くすればするほど、その時々の事情に応じて役員給与の額を操作し、法人の課税所得の恣意的な増減を図ることが可能になると考えられる。特別な事情が存在する場合、課税の公平が確保できるのかという問題がこれから検討されなければならないであろう。

役員報酬をめぐる法務・会計・税務 (第3版)

役員報酬をめぐる法務・会計・税務 (第3版)

7.追加検討事項
7-1 事前確定届出給与は、同族会社・非同族会社とも利用できる制度である。役員給与の支給の調整による法人の課税所得の恣意的な操作可能性は、同族会社と非同族会社で異なると考えられるか。

7-2 平成28年度改正で新しく導入された、譲渡制限株式による事前届出を必要としない事前確定届出給与(法34条①2)は、役員給与の損金不算入制度の立法趣旨と矛盾していないか。


*1:判決文からは明確には読み取れないが、引用されている更正処分等の内容からみて、Xは減額支給した夏季賞与については損金不算入として確定申告を行っているものと推測される。

*2:不相当に高額であるとして損金に算入されない役員給与の額の一つとして、株主総会等の決議で役員給与の支給限度額を定めている場合にこれを超えた額も該当すると規定されていること(いわゆる形式基準。法令70条①1ロ)も考えるに、法人税法における役員給与制度は相当程度、会社法の概念を借用しているものと考えられる。

*3:品川芳宣「役員に対する冬季賞与と事前確定届出給与該当の有無」税研171号、85頁、渡辺徹也「法人税法34条1項2号にいう事前確定届出給与該当性の可否」『ジュリスト』1480号、2015年,130頁。Xはこの緩和解釈を基に裁判で同一事業年度内でも同様に損金算入が認められるべきとの主張を行ったが、退けられている。筆者は、裁判所が年度を跨ぐか否かで解釈を変更することの矛盾はないとした判決の理由付けは弱いのではないかと考える。

*4:事前確定届出給与に所轄税務署長の「承認」は必要とされていないし、法令で届出を拒絶できる権限は税務署長には付与されていない。

酒井克彦「レクチャー租税法解釈入門」レビュー。

酒井克彦教授の新しい著作、「レクチャー租税法解釈入門」を読み終わりましたので、少々レビューを。

レクチャー租税法解釈入門

レクチャー租税法解釈入門

酒井克彦教授のテキストはどれも厳密な論理展開で執筆されています。

なので、法律学としての租税法学習に慣れない本当の初学者だと、最初何が論じられているのかなかなか理解できず、「これで本当に基礎的なテキストなの?」と感じることもしばしば。

しかし、一度慣れてしまえば、通説のみならず、反対する学説や、酒井教授の考察も踏まえてロジックがきちんと整理されて記述されているので実に明快であります。

独自説を強調するあまり、無理な論理展開をする一部の租税法学者の論文・著作とは一線を画しておりますね。

本書は、「レクチャー租税法解釈入門」とあります。
ホステス報酬源泉徴収事件、武富士事件、オウブンシャHD事件などの過去の著名な租税裁判、また、船舶の定義をめぐる借用概念など近年の重要判例を題材に、租税法の解釈方法を図式もまじえながら易しく解説しております。

易しい、といいましても論理的な厳密性は損なわれておらず、さすがの展開です。

独習文献にも、ゼミ形式での勉強会の教材にも向く一冊ではないでしょうか。

お勧めしたいと思います。



新・独学者のための租税法研究入門。(その3 条文解釈編)

法律の学習は条文に始まり、条文に終わると聞きます。
租税法も法律学の一分野ですから、条文の重要性はいくら強調しても強調しすぎることはないはずなのですが・・

税務(税金計算の技術。経理実務に近い税会計処理のこと)から入った方は、どうしても事例などを集めた実務書に頼ってきたためか、法律条文を読むことに抵抗があるのかもしれません。

また、税法の条文は「一読難解、二読して誤解、三読して不可解」とも言われるくらい読みにくく、特に近年改正された組織再編税制や連結納税の法人税法や、租税特別措置法はカッコ書きが多重になってもはや何が書いてあるのか完全に意味不明状態・・

とはいうものの、法学の学習で条文を読まないと議論の入り口に立つことすらできません。

そこで、税法条文を読む助けに、下記の書籍を活用しております。

税法の読み方 判例の見方(改訂第3版)

税法の読み方 判例の見方(改訂第3版)

私が持っているのは紙の本ですが、kindle化もされて手軽に読めるようになりました。
税法の構成から解釈の方法、基礎的な法令用語の解説から判例の読み方まで詳細に解説されております。

上記と内容が一部重なりますが、法令用語の読み方の解説。
「その他」「その他の」の違いとか、「無効」「取消し」など、基本的な法律用語から、発展的なエキスパート分野内容までの使い分けと意味がまとめられております。

新法令用語の常識

新法令用語の常識

酒井克彦先生の租税法テキストシリーズのうち、「フォローアップ租税法」が条文・判例の読み方に充てられています。

フォローアップ租税法―租税法研究の道しるべ

フォローアップ租税法―租税法研究の道しるべ

後半には租税法論文を執筆するにあたっての資料収集のノウハウなども記述されております。

これらを参照しつつ、条文・判例を読む訓練をすれば、学習がうまく進められることと思います。


新・独学者のための租税法研究入門。(その2 入門編)

大企業の経理部門に勤務して、10年とか税務を続けられているベテラン経理マンでも、法学としての租税法とは日々仕事をしている中ではほぼ、接することがありません。

税務というのは、あくまで「税金計算の技術」のことであって、法律の解釈とかの世界とは別物ですからね。

さて、導入編に続きまして「入門」編です。

「租税法入門の壁」を超えるためには、租税法律主義、租税公平主義、包括所得概念、租税法と私法の関係、借用概念、租税回避といった基本的な学問分野の概念を理解したり、大島訴訟など重要な最高裁判例も知っておかなければなりません。

いくら、税務に詳しい=個別計算規定に精通していても、上記のような学問分野特有の概念を知らなければ、ほぼ無限に増えていく計算規定をひたすら意味もわからずまる覚えし続けることになります。
もちろん、これでも実務としての税務はこなせます。
税務の学習は、事例集や質疑応答事例のような実務書や、通達の逐条解説を読むことと、自社で発生する事例を当てていけばほぼじゅうぶんですからね。
税務に詳しい、と自信をもって租税法の世界に入ってきた方が、壁に当たってしまうのがこの辺りの差異ではないではないかと。

上記のような「学問としての租税法特有の概念」を学ぶために、お勧めしたいのはこちら。

①中里実編「租税法概説」第2版

租税法概説 第2版

租税法概説 第2版

東京大学の中里実教授らの編集による基本書です。租税法の基礎概念から所得税法人税、消費税、相続税など基本的な税目まですべてカバーしています。
特色として、法と経済学の視点が入っていること(取引法としての租税法)、近年、非常に重要性が高まっている国際課税についても詳しく記述されていることが挙げられます。
第2版としてアップデートされましたので、新しい裁判例も取り込みされています。



②酒井克彦「ステップアップ租税法」

ステップアップ租税法―租税法解釈の道しるべ

ステップアップ租税法―租税法解釈の道しるべ

「スタートアップ租税法」が品切れになっておりますので、こちらも。先ほどの租税法律主義、租税公平主義、包括所得概念、租税法と私法の関係、借用概念、租税回避といった概念について判例を交えつつ、詳しく説明されています。
ただ、これを1冊目に手に取ってしまうと難しくて理解不能になりますので、導入編と①の租税法概説の後に読むとよいでしょう。
酒井先生はこの本は「租税法の基礎」と書かれています。最初は難しく感じられるかもしれませんが、取り上げられている概念も判例もまさに基礎レベル。
ただし、基礎=易しいではありませんので・・



続きます。

新・独学者のための租税法研究入門。(その1 導入編)

ちょっと学習が進みましたので、「新」シリーズです。

いうまでもなく、租税法も法律学の一分野です。
税法学習を志す方は簿記検定や経理実務から入ってきた方々も多いため、法学の基礎的な素養がないために最初の取り掛かりに非常に苦労します。

法学部出身で、憲法民法の学習経験がある方には想像が付かないかもしれませんが、無効や取消という概念も聞いたことがなく、法律条文や判決文を読む訓練を受けていないため、予想外にこの「法学的なるもの」の壁が厚いのです。

私自身は、法学部出身ではありませんが、はるか昔に宅建を取ったため民法の学習経験がありましたし、職業(金融)としてまったく法律に触れていなかったわけでは無かったものの最初はやはり苦労しました。

初学者が難しいテキストを読もうとしてもまったく理解できず、空回りするだけです。
やはり、導入~入門~基礎というような順序で学習を進めることで、理解が容易になるものと思われます。

まずは、導入編です。

①三木義一先生の監修による「よくわかる税法入門」です。改訂を重ねましてもう第9版まできました。ゼミ生と教員の会話形式で読みやすいです。

よくわかる税法入門 第9版 (有斐閣選書)

よくわかる税法入門 第9版 (有斐閣選書)

会話形式が苦手な方でも、各章の後半の解説部分で整理できると思います。

②同じく会話形式による導入本として、「プレップ租税法」ですね。

プレップ租税法 第3版 (プレップシリーズ)

プレップ租税法 第3版 (プレップシリーズ)

と、第3版に改訂されたんですね!私が持っているのは第2版なので、後ほど購入したいと思います。
法学部の学部生向けなので、まったく法学の素養が無い方はちょっと難しく感じるかもしれませんが、まずはこちらを。

③酒井克彦先生のスタートアップ租税法。第3版です。

スタートアップ租税法―租税法学習の道しるべ

スタートアップ租税法―租税法学習の道しるべ

(10月23日)アマゾン在庫が復活いたしました。ぜひ。
酒井克彦先生の本は論理が非常に緻密に書かれているので、導入本といいましてもきっちりしております。
入門書といいましても、会話形式が苦手な方は、まず、こちらから読んでみてはいかがでしょうか。




続きます。

租税法と私法、予測可能性のお話。(その2)

 今日の経済的取引は極めて複雑化しており、民法で定められた売買や賃貸借などの典型的な契約だけではなく、民法に定めが無い契約形式も合わせ、それらを組み合わせるなどしてほとんど無限に近い契約パターンが選択できる。

 法人税法は、法人の所得を課税標準法人税法5条)としており、その所得を計算するための規定は法人税法22条に定められている。
 例えば、実物の棚卸資産を販売して引き渡し、代金を現金でその場で受け取るといった単純な取引であれば、収益の認識や売上原価をどの事業年度に認識し(法人税法22条②③)、どの金額で計算(法人税法22条④)するか、納税者と税務官庁の間で争いが起こることは考えにくい。
しかし、今日の経済的取引においては、信託など非典型契約による取引や複雑な技術を用いて組成された金融商品などの取引において、そもそも収益や費用の計算をどのように行うべきか、細かい租税法の規定は存在しないし、行政通達も決して網羅的ではない。*1


 租税法令の網羅性の欠如を補充しているのが、法人税法22条④、いわゆる公正処理基準といわれるものである。22条④の意義として、自主的経理の尊重が挙げられる。すなわち、収益の額および費用・損失の額の計算を公正処理基準に委ね、法人税法の簡素化を実現している。*2しかし、法人の行った会計処理が別段の定めが無い場合でも法人税法において常に受け入れられるわけではなく、「現に法人のした利益計算が法人税の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限り」*3という前提が置かれている。


「日本の税務執行実務全般において、実に予測可能性が乏しい」という指摘もあり、*4法人税法における予測可能性を高めるために、公正処理基準とはなにか、法人税の企図する公平な所得計算とは何かを研究することが求められている。



*1:法人税法12条(信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属)は信託課税について概括的にしか規定しておらず、法人税法61条以下の金融商品に関する規定も基本的な金融取引についてしか規定がない。膨大な法人税法基本通達が法令を補っているが、網羅性は完全ではない。

*2:中里実(編)、『租税法概説 第2版』弘文堂、2015年、147頁。(吉村政穂記述)

*3:最判平成5年11月25日民集47巻9号5278頁、大竹貿易事件。

*4:平川雅士「近時の判例等にみる租税法の原理・原則」『租税研究』769号(2013年11月号)、122頁。