すらすら租税法研究ノート。

租税法に関する勉強と思考を書きます。

相互タクシー増資高額払込事件(福井地裁平成13年1月17日)

1.事実
 納税者X(相互タクシー株式会社。同族会社、原告)は、平成5年12月、Xに対する借入金等で債務超過状態であった訴外B社 に対し、額面50円の株式を1株100万にて5万株余り引き受け、段階的に計529億円を払い込んだ(増資後もB社は債務超過状態のままである。なお、増資払込金はXからの借入金の返済に充てられた)。
 Xは、増資払込により取得したB社株式(Xは取得原価529億円)を訴外Pに1億6千万円で売却し、527億4千万円の株式売却損を計上した。
 また、これとは別に、Xは保有する上場有価証券を訴外Cに579億円で売却し売却益を計上した 。
 X社は上記の取引等に基づき、株式売却損約527億円を損金の額、上場有価証券売却益を益金の額に算入する等として課税所得を計算した結果、平成6年3月期が15億円の欠損金であるとの法人税の確定申告を行った。
 これに対し、税務署長Yは、株式売却損約527億円を損金に算入するのは誤りであり、法人税法37条に規定する寄附金に該当するとして損金算入限度額を超える524億円あまりを所得に加算する法人税法の更正処分及び重加算税並びに過少申告加算税の賦課決定処分を行った。
 納税者Xは、適法な不服申立手続を経て、税務署長Yの更正処分等の取消を求めて出訴した。

2.争点
 Xが債務超過の子会社B社に対して行った本件増資払込金のうち、その額面金額50円を超える金額約528億円は法人税法37条に規定する寄附金に当たるか 。 


3.納税者(原告)Xの主張
 法37条⑥に規定する寄附金は借用概念であって、民法上の贈与と実質的に同一である。また、商法上、適法に行われた資本取引である増資払込から損益は生じ得ない。企業会計原則によれば、増資により取得した有価証券の取得原価は払込金額に付随費用を加算したものとなる。増資払込金額の決定に当たり時価を基準としなければならないとする法律上、企業会計原則上の制約は無いから、増資払込金額について時価を問題とされない。
以上から、本件増資払込金が法人税法上の寄附金とされる余地はなく、税務署長Yの更正処分等は違法である。

4.税務署長(被告・国)Yの主張
 法37条に規定する寄附金は私法上の法形式ではなく、当該行為が利益処分性を有するか否かという実質によって判断されるべきである。同条⑥が名義を問わないこと、同条⑦が実質的な贈与を意味することから、寄附金は民法上の贈与に限定されない、税法上の固有概念と解すべきである。
 また、増資払込が商法上、適法、有効かつ正当な取引であるか、違法、無効かつ不当な取引であるかということは、寄附金に当たるか否かは無関係であるから、法律や企業会計原則上の制約に反しない適法な増資払込であっても、寄附金と認めることは可能である。
 以上から、税務署長Yの更正処分等は適法である。

5.裁判所の判断
 納税者X請求棄却。

 ……法37条に定める寄附金の損金不算入の制度の趣旨は、寄附金もまた法人の純資産の減少であるが、法人が支出した寄附金の額の全額が無条件で損金となるものとすると、その寄附金に対応する分だけ当該法人の納付すべき法人税額が減少し、その寄附金は国において負担したのと同様の結果になることから、これを排除することにあると解される。そして、寄附金の意義について、法37条⑥は「寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」と規定しており、また、同条⑦は、「実質的に贈与又は無償の供与」と規定していることからすると、同条⑥にいう「贈与又は無償の供与」とは、民法上の贈与である必要はなく、資産又は経済的利益を対価なく他に移転する行為であれば足りるというべきである。
 もっとも、右「対価」の有無は、移転された資産又は経済的利益との金額的な評価、価額のみによって決すべきものではなく、当該取引に経済取引として十分に首肯し得る合理的理由がある場合には、実質的に右「対価」はあるというべきである。
 ……株式は会社財産に対する割合的持分の性質を有し、株主は会社の純資産を株主保有割合に応じて間接的に保有するものであるから、増資会社(訴外B)が債務超過の場合に、新株を発行しても増資会社の債務超過額を減少させるにとどまるときは、増資払込金は増資会社の純資産を増加させることにはならず、したがって、新株式の価格は理論上はゼロ円となる。
(事実認定によると原告Xは商法上、適法に訴外Bに対し払込を行っているが)本件増資払込みよる現実の出損があったとしても、法37条の解釈、適用上、本件増資払込金の中に寄附金に当たる部分がある場合には、当該部分は法人税法上の評価としては(有価証券の取得原価を構成する)「払い込んだ金額」には当たらない……(法37条は「別段の定め」であり、公正処理基準(商法や企業会計原則上の取扱い)にかかわらず適用される)。原告の会計処理上、本件増資払込金の全額を有価証券勘定に計上したからといって、右原告の会計処理上の扱いに法人税法上の法的評価が拘束される理由はない。
本件増資払込は、後に原告がCに上場株式を売却することによって生ずる有価証券売却益に見合う株式譲渡損を発生させ、右有価証券売却益に対する法人税の課税を回避することを目的としたことは明らかであり、本件株式を額面金額かつ発行価額である一株当たり50円を超える額で引き受けて払い込んだことに経済取引として十分に首肯し得る合理性は認められないというべきである。

 本件Yの更正処分等は適法であり、Xの請求はいずれも理由がないとし棄却された。

 その後、納税者Xは控訴したが、名古屋高裁(平成14年5月15日)は第一審判決を維持し、控訴棄却。Xはさらに上告及び上告受理申立をしたが、最高裁(平成14年10月15日)は棄却・不受理決定し、納税者Xの敗訴が確定した。

6.評釈
 判決に賛成する。
 裁判所は、法解釈として確立している寄附金の趣旨と解釈を述べたうえ、理論上の価格がゼロである株式を取得するために529億円を払い込みしたことは、別件の上場株式の売却益と本件増資払込による株式売却益の相殺による租税回避が目的であり、他に経済取引としての合理性は存在せず、対価の無い「資産又は経済的利益の無償の供与」として法37条の寄附金に該当するとした税務署長の課税処分の適法性を認めた。
本判決から読み取られる事実認定から、理論的な価値がゼロである株式しか取得できないにもかかわらず行われた著しく高額の増資払込に、なんら経済取引としての合理性が存在しないことは明らかであり、裁判所の結論は妥当であると考えられる。ただし、寄附金に該当するという結論を導くために「租税回避の意図の存在」ではなく、「経済的合理性の不存在」を理由としていることに留意が必要である。経済的合理性が存在すれば、寄附金の要件には該当せず、結果的に租税回避が達成されたとしても寄附金認定されることは無いと考えられる。
また、Xが主張するとおり、商法上または企業会計原則上、増資払込金額の制約はなんら存在しないが、寄附金の要件を定めた法37条は別段の定めであり、別段の定めがある場合、課税所得計算上はその計算規定が優先するのであり(法22条)、商法や企業会計の計算規定は受け入れられないのは当然である。
 なお、本件は平成13年度商法改正により廃止された額面株式制度が存在した旧商法時代の裁判であり、額面50円を超える金額について、税務署長Yが行った寄附金であるとの更正処分を適法としたものである。現行の会社法にも額面株式制度は存在せず、商法(会社法)上の制度への適合性の有無は法人税法上の課税所得計算(寄附金認定)には関係しないものであることから、更正処分のうち、額面50円の部分について寄附金としなかった部分には疑問が感じられる。増資後も訴外B社は債務超過状態で株式価値はゼロ円であると判決文中でも判断されており、額面50円を寄附金の額から控除すべきではないと考える。




7.追加検討事項
7-1 現行の法人税法ではXとBは完全支配関係にあり、グループ法人税制が適用される。仮に、現行法下で上記の取引が行われた場合、課税関係はどのようになるか。




7-2 同様の事案である日本スリーエス事件(東京地裁平成12年11月30日)では、法132条の同族会社の行為計算否認規定に基づいて更正処分が行われている。本件との違いはどこにあるか。

租税判例百選 第6版 (別冊ジュリスト228号)

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