すらすら租税法研究ノート。

租税法に関する勉強と思考を書きます。

2012-01-01から1年間の記事一覧

所得税の空洞化を考える。

日本の所得税が抱えている問題点として次の3つが指摘されます。 ①所得控除が大きく、低中所得者のみならず、高所得者の税負担も大幅に軽減されている。 ②ほとんどの世帯において、社会保険料の負担は所得税に比べて大きい。 ③年金世帯の税と社会保険料負担は…

金融機関と信頼。

倫理や公正という概念は曖昧なもので、 一人ひとり、その基準は異なるのではないかと考えられます。今般の金融危機対応に限らず、 金融市場や金融機関に対する規制や公共政策が 保護主義の立場に立って過度の規制や 誤った規制を生み出してきた歴史がありま…

資本を保護せよ。

資本は、利潤を生み出す「元手」であり、無くならない限り再投資されて次々と新しい利潤をもたらしてくれます。 一方、同じ生産要素である「労働」は一日の仕事で疲れ果てても、食事をして休息して睡眠を取れば、再び活動できるようになります。第二次大戦後…

部分的な中立性に価値はあるか?

課税自体は民間から政府への所得移転に過ぎず、何ら新しい価値を生み出すものではありません。 課税による機会コストは、課税がなければ創出されていただろう付加価値を損なう逸失利益(超過負担)のことになります。租税原則「公平・中立・簡素」のうち、中…

消費税法文献・論文サーベイ(その1)

東海大学の西山由美教授は消費税に関する興味深い論文をたくさん執筆されています。 必読です。消費税の中長期的論点 : EU付加価値税からの示唆東海法学 39, 107-118, 2007消費課税における競争中立性--「ガストン・シュール事件」を素材として税法学 (540),…

外形標準課税と消費税の差異、税等価。

外形標準課税(法人事業税)と消費税は、地方税と国税という差異の他、税額計算過程にも大きな違いがあり、別々のものだと思われています。 もっとも大きな違いは、外形標準課税は資本金1億円超の大きい企業のみに課税される「直接税」であるのに対し、消費…

取引高税の興亡。

製造→卸売→小売と、商品が流通するたびに課税され、しかも今日の付加価値税(消費税)のように前段階税額控除がなく、課税が累積していく(tax on tax)、「取引高税」についてです。取引高税は、第一次世界大戦の戦費を賄うために創設され、欧州で広く使わ…

小売売上税の米国における普及要因。

取引のあらゆる段階に課税されるものの、前段階税額控除により課税が累積しない特徴を持つ付加価値税は、広く世界に普及しており、日本の消費税もその一種であります。 OECD諸国のうち、唯一の例外として全国(連邦)レベルで付加価値税の仕組みを採用し…

納税の法的義務とその帰着。

法人企業は、法律上の税支払い義務はあっても、最終的に負担する主体にはなり得ません。法人課税は、一般に生産要素(労働・資本・・)所有者あるいは生産物購入者(消費者など)へ税の転嫁をもたらすことになります。 どの主体により多くの税の負担が帰着す…

消費税は付加価値税ではない?

付加価値税は実は付加価値に対する税ではない、と。租税図書館にもないので、国会図書館へ依頼するか。うーむ手間がかかるなあ。中村一雄(1971),付加価値税の分析視点,神戸大學經濟學研究年報,18巻,pp.84-111しかし、1971年の論文ですよ。 他で引用され…

実感としての消費者課税と、実態としての企業課税。

消費税は、買い物をした消費者から、国に納付するまでの「預り金」的性格を持つ、と納税当局から説明されることもあります。 しかし、消費税法の条文では消費者から「税額相当」を必ず預かるものとする、とは規定されていませんし、企業会計上で「預り金」経…

払う時に課税する?

我が国の現行の所得税法は、一時的な所得などにも課税する「包括的所得概念」に立脚していると解説されています。*1包括的所得概念への経済学的な立場からの批判として、次のようなものがあげられます。 ①勤労所得への非中立性 ②貯蓄・投資への二重課税によ…

転嫁の周知と国民的理解。

「間接税」とは、立法者により転嫁が予定されている税金ではありますが、実際に転嫁を行えるかどうかは、取引における力関係によります。 主税局長・国税庁長官・大蔵事務次官を歴任した尾崎護氏も、売上税法案廃案後に書いたエッセイ風の「売上税独り語り」…

金融仲介業への付加価値税課税の可能性。(思考中)

銀行業に代表される金融仲介業が生み出す審査・モニタリング・金融サービスなどの付加価値は、「金利」の中におり込まれてしまい、明示されません。 そのため、GDPの計算においても測定されてきませんでした。日本における金融仲介業が生み出す「付加価値」…

銀行業と消費課税。(その3)

Taxation Of Financial Intermediation : Theory And Practice For Emerging Economiesこの文献中には、1995年〜96年に欧州の金融機関10社の協力で行われたTCA(税額計算勘定)付キャッシュ・フロー税のパイロットテストについて書かれているそうです。 …

ネットで無料で読める租税法論文。(海外編)

National Tax Journalは発刊後2年を経過したものは登録無しで全部、無料で読めるようです。有難や〜 Howell H. Zee,A New Approach to Taxing Financial Intermediation Services Under a Value–Added Tax,2005 金融機関に対するリバースチャージ法による付…

非居住者、あるいは国外への波及?

消費税は内国税であり、その課税対象は「国内において行われた」ものに限られます。 当然、資産の譲渡等(役務提供も含む法令上の表現)の相手が「誰」であるかは無関係であり、販売・サービスした相手が日本人(居住者)及び内国法人に限定されるものではな…

個別消費税と一般消費税。

酒税・たばこ税・ガソリン税、あるいは廃止された物品税など、 個別消費税を財政学の視点から支える論点は、3つあります。①贅沢品に対する重課。 垂直的公平(負担能力がある者には重く税を課する)という視点から、贅沢品に対する重課が正当化されます。 …

なぜ法人に課税する?

法人は、法律が作り出したものであります。 これが実在しているのか、 それとも個人の集合体に過ぎないのか、 租税法の世界でも延々と論争が続いてきたそうです。現実の法人税法は、個人の集合体であるという建前を とりつつ、実在説も加味しているのではな…

数量化できない課税物件には。

財務会計のテキストの最初の方で、 会計公準というのが出てきます。 その中で、貨幣的測定の公準、というのがあります。 いろいろな意味がありますが、 お金で測れないものは財務会計には取り込めない、 というものも含まれますね。さて、租税法の世界では「…

外形標準課税と消費税は二重課税では?

我が国の消費税は、欧州VATに類似した付加価値税であるといわれます。 消費税法の仕入税額控除の仕組みを分解しますと、 このような式で表されます。課税標準=売上額-原材料仕入額‐資本財購入額 税額=課税標準×5%(地方消費税含む)一方、地方税である法…

つぎはぎ改正が引き起こす会計税務の差異とは。

今日の財務会計は、言うまでもなく発生主義会計により行われています。 現金の入金がなくとも、「実現」したものであれば収益に計上する、という実務慣行ですね。さて、日本の会計基準には収益認識に関する包括的な基準がなく、その「実現」基準として法人税…

付加価値税、文献調査メモ(その1)

付加価値税について長い歴史を持ち、税率も高い欧州では「金融取引と付加価値税」についても様々な研究論文や調査がまとめられている、と。 記録しておかねば。Value Added-Tax: a study of methods of Taxing Financial and Insurance Serviceshttp://ideas…

どの国で付加価値税を課税する?

国際的二重課税の排除、といいますと 外国税額控除制度や、租税条約、 または転じて移転価格税制・過少資本税制などが 思い浮かびます。しかし、付加価値税の世界でも 国際的二重課税の排除が行われています。 それを担保するのが輸出免税制度です。輸出免税…

信頼の対象となる公的見解?

税務署に聞きに行って、そのとおりに処理したのに 後から税務調査で否認されたり、 追徴課税されたり・・ということはよくあると聞きます。最高裁判決は、納税者が救済される場合として 次のようなものを示しています。①税務官庁が納税者に対して信頼の対象…

租税回避否認の論理には。

私法の世界では、 「私的自治の原則」と「契約自由の原則」が 前提として置かれています。租税法は強制力を持った「徴税」という、 国家権力と私人の交差する場面を律していますが。私的自治と契約自由を重視しますと、 課税要件を回避するために 経済効果は…

いちいち裁判にはできませんし・・

本日の1冊はこちらです。 税法入門 第6版 (有斐閣新書)作者: 金子宏,清永敬次,宮谷俊胤,畠山武道出版社/メーカー: 有斐閣発売日: 2007/04/09メディア: 新書購入: 2人 クリック: 4回この商品を含むブログ (11件) を見る 55頁より。 公平負担の原則は常に立法…

応益的負担とは?

本日はこちら。 租税法ではなく、財政学のテキストです。 現代財政学 (有斐閣アルマ)作者: 横山彰,堀場勇夫,馬場義久出版社/メーカー: 有斐閣発売日: 2009/05メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 1回この商品を含むブログ (4件) を見る この中から、地方税…

一般に公正妥当と認められる会計処理の基準、って?

さて、本日の題材は中井稔教授の「企業課税の事例研究」です。 企業課税の事例研究作者: 中井稔出版社/メーカー: 税務経理協会発売日: 2010/03メディア: 単行本この商品を含むブログを見る 中井教授は元日本興業銀行の経理部長を務めた方。 あの有名な貸倒損…

未定稿・銀行業と消費課税(その2)

本稿は(ry まだ考え中なんだからツッコミ入れないでね! ということでw本日は有価証券等の譲渡対価の計算方法について論じてみましょう。 消費税法第6条・別表第一で限定列挙される13種類の取引は「非課税」となりますが、これは欧州付加価値税の非課税範囲…