すらすら租税法研究ノート。

租税法に関する勉強と思考を書きます。

独学者のための租税法研究入門。(その9 税制調査会答申編)

どの学問分野でも基本的作法というものがあります。
議論を進める上で、共通の理解が前提として存在しないと、既に決着済みの論点を繰り返すことになったり、あるいは自己流で無理な解釈を示すことにもなりかねません。


今回は、政府税制調査会の答申、なかでも押さえておきたい代表的なものを紹介いたします。


税制調査会は「内閣総理大臣の諮問機関」で、その委員は国民の選挙の洗礼を受けるわけではありません。
そのため、憲法の定める租税法律主義の建前からすると、税制調査会が述べる税法の立法趣旨や目的については、しばしば疑義が呈されております。
しかし、租税法の世界では、政府税制調査会でうちだされる様々な議論を踏まえず、自己流の解釈や主張を述べるのはあまり褒められた作法とは言えないかと。


まずは平成12年の「我が国の税制の現状と課題」です。いずれもPDFファイルで、重いのはご容赦ください。
http://www.soken.or.jp/p_document/zeiseishousakai_pdf/h1207_wagakunizeiseinogenjoutokadai.pdf
全体で200ページ以上に渡ります。租税の意義などから始まり、税制だけではなく、基礎的な財政学の知識まで得ることができます。
10年以上前のものですが、今でもじゅうぶんに税制のなんたるかを学ぶことができます。


平成8年の「法人課税小委員会報告」です。
http://www.soken.or.jp/p_document/zeiseishousakai_pdf/h0811_houjinkazeisyouiinkai.pdf
戦後、企業会計法人税法はできるだけ調和を図っていこうという時代が続きましたが、この法人課税小委員会報告で、各種引当金の損金算入廃止など、課税ベース拡大と企業会計と明確に分かれていく税制改正の基礎的な考え方を示しています。


現在の所得税法法人税法は昭和40年に全文改正されたものです。
その基本的考え方を示したのがこちら「所得税法及び法人税法の整備に関する方針」。
http://www.soken.or.jp/p_document/zeiseishousakai_pdf/s3812_syotokuzeiho_houjinnzeihonoseibi.pdf
昭和38年の答申です。



その他、消費税法導入、組織再編税制、連結納税導入など、全ての政府税制調査会の答申はこちらで読めます。
公益社団法人 日本租税研究協会|税制調査会答申集


現在の政府税制調査会の会長は中里実東京大教授。
著作・論文も多数執筆していますが、こちらの基礎テキストもお勧め。

租税法概説

租税法概説


税制調査会の考え方に賛成するにせよ、反対するにせよ、租税立法の大きな動きを決めるのはこの答申です。
まずは、虚心に読んでみましょう。

オンラインで無料で学べる税法入門。

「独学者のための租税法研究入門」は1回お休みしまして、「研究」に入る前に読むべき、無料でネットで学べる税法入門を紹介いたします。



日本税理士連合会の「やさしい税金教室」「こんなときこんな税金」。毎年更新されるフルカラーのパンフレットが無料で読めます。


パンフレット「暮らしの税情報」(平成26年度版)|パンフレット・手引き|国税庁
国税庁のHPは無料情報の宝庫なのですが、あまりに膨大すぎて、慣れないと何がどこに掲示されているのかさっぱりわかりません。
こちらは一般納税者向けの暮らしの税情報パンフレット。


税大講本|税大講本|税務大学校|国税庁
税務職員向けの研修施設である税務大学校で使用されている「税法入門」など8種類の税法テキストが誰でも無料で読めます。



財務省が毎年作成しているフルカラーパンフレット「もっと知りたい税のこと」。国税庁のパンフレットは税務(税金計算)がメインですが、財務省のパンフレットは財政のことも書かれています。


財務省HPではこちらも。



この辺りの無料情報で基礎的な知識を身に付けましたら、次にコンパクトに読めそうなのは三木義一先生のこちらがお勧め。

日本の税金 新版 (岩波新書)

日本の税金 新版 (岩波新書)


その他にも「税法入門」「租税法入門」といったテキストは複数ありますが、中にはぜんぜん入門では無くて難しいのもあります。
あまりあちこちに手を出すとお金と時間をロスしますので、まずは上記の無料で学べるコーナーから、ぜひ。

独学者のための租税法研究入門。(その8 番外①財政学編)

その8です。


「独学者のための租税法研究入門。」ですので、集めた税金を「使う方」はまた別の分野です。しかし、租税法を学ぶためには周辺知識も重要ですので、簡単な財政学及び経済学の知識があると重宝いたします。


財務省が毎年編集しているこちらで基礎データ(ざっくりとした財政規模)を知っておくと、巷に流れる怪しい話を見分けるのにも役立ちます。

図説 日本の財政 平成26年度版

図説 日本の財政 平成26年度版

税制についても出ています。
図説 日本の税制〈平成26年度版〉

図説 日本の税制〈平成26年度版〉


地方財政については、超入門書であるこちらと・・

入門地方財政(第3版)

入門地方財政(第3版)

こちらで経済学の面白さを知りました。
地方財政論入門 (経済学叢書Introductory)

地方財政論入門 (経済学叢書Introductory)



考えるに、財政学に限らず、租税法以外の法学分野(憲法会社法行政法民法など)、学部レベルの基礎的な経済学を身につけておくとよいかと。
ミクロ経済学の基礎的な考え方を理解しておけば、租税特別措置による怪しい優遇がはたして効果があるものかどうか、考えることもできます。


続きます。

独学者のための租税法研究入門。(その7 学者紹介編③)

その7です。


例の富岡幸雄名誉教授のトンデモ本で傷つけられている中央大学の名誉回復のために、今回は中央大学の優れた租税法学者を紹介いたします。
しかし、OBとはいえ、あんな錯乱した方がいたら嫌ですね。。
まだOBだから我慢できますが、同志社大学とか、現役のトンデモ教授在籍の大学には同情いたします。


さて、中央大学の租税法学者と言えば、まずこの方です。
中央大学大学研究者データベース | 研究者プロフィール[商学部 教授 酒井 克彦]

酒井克彦教授。代表作は「スタートアップ租税法」に始まる4冊のシリーズでしょうか。

スタートアップ租税法―租税法学習の道しるべ

スタートアップ租税法―租税法学習の道しるべ

ステップアップ租税法―租税法解釈の道しるべ
フォローアップ租税法―租税法研究の道しるべ
ブラッシュアップ租税法―判例学習の道しるべ

私はまだ「ステップアップ」までしか読んでおりませんが、順番に読み進めて行くと租税法を独習できると評判のテキストシリーズですね。

酒井教授は、アコード租税総合研究所という研究会も主催しており、大学での指導の他に実務家や研究者向けにも精力的に講演会を開いておりますし、理論的な論文や判例批評もすごい頻度で発表しております。
東京にいたら、ぜひ入会して聴きに行きたいところです。
アコード租税総合研究所



続いて中央大学名誉教授である大渕博義氏。トンデモ名誉教授と異なりまして、こちらは名誉教授の称号にふさわしい偉い先生ですw


代表作はこちらでしょうか。

法人税法解釈の検証と実践的展開 第I巻 〔改訂増補版〕

法人税法解釈の検証と実践的展開 第I巻 〔改訂増補版〕

法人税法解釈の検証と実践的展開 〔第II巻〕

法人税法解釈の検証と実践的展開 〔第II巻〕


大渕名誉教授は、膨大な理論論文・判例評釈を発表しておりますが、代表的なのはこちらにまとめられていますね。
今でも各地で講演を開いているそうでして、ぜひ一度聞きに行きたいところです。


ちょっと純粋な法学者とは異なりますが、元財務官僚の森信茂樹教授。政策提言的な著作・論文が多いですね。
中央大学大学研究者データベース | 研究者プロフィール[法務研究科 教授 森信 茂樹]

日本の税制――何が問題か

日本の税制――何が問題か

「日本の税制」は租税法専門書ではなく、専門家ではない市民でも理解できるように書かれています。2010年出版で少々古くなりましたが、税制の全体像を把握できます。


まだまだ続きます。

独学者のための租税法研究入門。(その6 判例学習編)

第6回です。

租税法研究にあたりまして、判例の学習は必須です。
大島訴訟(サラリーマン税金訴訟)など、租税法の合憲性にまで踏み込んだ重要な判決文は、繰り返し読み込んで司法の考え方を学びたいところです。


租税判例の学習書としてはいろいろ出ております。
いちばん有名なのはこちら「租税判例百選(第5版)」ですが、2011年出版で少々古くなっており、改定を望みたいところです。

租税判例百選 第5版 (別冊ジュリスト207号)

租税判例百選 第5版 (別冊ジュリスト207号)

百選は、一判例1~3ページ程度しかないので、細かい活字でびっしり書かれており、事実関係が複雑な場合は概要を把握するのに苦労しますし、解説部分もまれに言葉足らずで「??」になってしまう部分も。
小冊子ですので、「こういう事件があったんだな」と把握するのには最適かと。


分厚い演習書としては金子宏名誉教授とその門下の租税法学者らによるこちら。

ケースブック租税法 第4版 (弘文堂ケースブックシリーズ)

ケースブック租税法 第4版 (弘文堂ケースブックシリーズ)

  • 作者: 金子宏,佐藤英明,増井良啓,渋谷雅弘
  • 出版社/メーカー: 弘文堂
  • 発売日: 2013/09/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログを見る
第4版まででております。こちらは頁数にやや余裕がありますので、解説も詳しく、発展した学習のための設問や判例評釈の紹介も充実しております。
ただ、設問の解答は本書中には書かれていないので、指導教員がいない場合はなかなか厳しいです。
ゼミ形式で同水準の方々で議論できればなお良いのですが・・


判例評釈の検索方法ですが・・
旬刊の判例時報に1カ月に1回に判例評論が付きますが、サイニィでこのように検索できます。
CiNii Articles 検索 -  判例時報 税
検索画面に「判例時報 税」と入れると、このように租税法に関連した判例評釈がでてきます。


同様に、ジュリストですと・・CiNii Articles 検索 -  ジュリスト 税


このように、めぼしい法律雑誌で検索していくと、たくさんの租税判例がでてきます。


あとはひたすら図書館へ通いつめてコピーをとって、読む!
時間もかかりますが、あきらめず反復学習すると、だんだん租税法の考え方が蓄積されていくのです・・

独学者のための租税法研究入門。(その5 雑誌紹介編①)

その5です。


京都大学の租税法学者たちの紹介は少々、難しい本ばかりでしたので、今日は時事的な判例紹介などもある租税法の雑誌を紹介いたします。


租税研究
公益社団法人 日本租税研究協会|出版物
シャウプ勧告に基づいて設立された公益社団法人日本租税研究協会の月刊誌です。論文ではなく、会員向けの講演録などが収録されており、時事的な論点を知るには最適です。
残念ながら会員限定配付で市販されていませんが、大きめの図書館にはあるのではないかと。
私の近くには置いてある図書館が無いので、個人会員で加入しました(泣
購読会員は年3万円ですが、過去15年くらいの全記事がPDFで読めます。
また、年に1回租税研究大会に無料参加でき、租税法学者たちの報告・討論を聴講することができます。今年は岡村教授らの国際課税などで、たいへん興味深く聴けました。


税研
出版物 | 公益財団法人日本税務研究センター
似た名前ですが、公益財団法人日本税務研究センターの隔月刊誌です。こちらは専門度合いがやや易しめで、税務実務的な記事もありますが、岡村教授などの連載も有ります。
こちらも市販されておらず、会員限定・・以下同文。
私の近くには置いてある図書館が無いので、賛助会員1万5千円で以下同じ。
こちらは過去記事は創刊号から全てPDFで閲覧できます。


税法学

税法学 第571号(2014年5月)

税法学 第571号(2014年5月)

半年に1回しかでないのですが、京都大学周辺の租税法学者を中心にわりと硬派な論文が多いです。値段が高くてすぐ品切れになることと、所蔵している図書館が少なく、なかなか読めないのが残念です。


あとチェックすべきなのはジュリスト(月刊、判例記事も早い)、税務弘報(月刊、税務実務記事中心ですが一流どころも多いですが、たまに困ったおじいさんの記事も載るので注意)、税経通信(同)です。酒井克彦教授らがよく執筆している「月刊税務事例」(これも近くにない)。


法学協会雑誌。
東京大学法学部の学会誌です。
法学協会雑誌 | 研究活動 | 東京大学法学部・大学院法学政治学研究科
法学部がある大学なら電子購読できますが、私のところには無いので紙でコピー依頼しています。つらい。


法学論叢。
京都大学法学部の学会誌です。
CiNii Articles 検索 -  法学論叢 岡村忠生
法学部のある大学なら電子購読以下同文。つらい。


民商法雑誌。租税法裁判の判例批評がたまに載ります。
民商法雑誌 | 有斐閣
法学部のある大学なら以下同文。つらい。


こうしてみると自弁ばっかりで図書館にぜんぜん無い環境でよく研究しているなあ、という感想です。


研究費くださいお願いします(切実

独学者のための租税法研究入門。(その4 学者紹介編②)

第4回です。

学者紹介編で、前回は東京大学の金子宏名誉教授とそれにつらなる方々を紹介いたしましたが、今回は京都大学の清永敬二名誉教授、その弟子である岡村忠生教授、そのさらに弟子である租税法学者たちを紹介いたします。


岡村忠生京都大学教授の著作に「法人税法講義」という名著がありますが、残念ながら長らく品切れ状態で、アマゾンでも高値がついています。
一時期、第4版が出版されるというウワサが流れていたのですが・・

法人税法講義 (法学叢書)

法人税法講義 (法学叢書)

「新しい法人税法」は論文集です。岡村忠生教授の弟子たちが参加しています。

新しい法人税法 (京都大学大学院法学研究科COE研究叢書)

新しい法人税法 (京都大学大学院法学研究科COE研究叢書)

こちらも品薄で、なかなか入手しづらいです。

組織再編成の研究で名高い渡辺徹早稲田大学教授。

企業組織再編成と課税 (租税法研究双書)

企業組織再編成と課税 (租税法研究双書)

渡辺徹也 研究者データベース

パートナーシップ課税の研究者、高橋祐介名古屋大教授。

アメリカ・パートナーシップ所得課税の構造と問題

アメリカ・パートナーシップ所得課税の構造と問題

教員詳細 - 髙橋 祐介

さらに若手ですと、酒井貴子大阪府立大学准教授。

法人課税における租税属性の研究

法人課税における租税属性の研究

博士論文が元になっています。
教員活動情報データベース |大阪府立大学

小塚真啓岡山大学准教授。
法学部教員紹介 | 岡山大学法学部
博士論文「税法上の配当概念の意義と課題」は2015年3月公開とのこと。
早く読ませてください!
Kyoto University Research Information Repository: 税法上の配当概念の意義と課題


こちらに紹介した方々はほんの一部です、続きます。