独学者のための租税法研究入門。(その3 論文検索編)
さて、第3回です。
京都大学(出身)の租税法学者たちの紹介は次回にしまして、今回は租税法論文の検索方法を紹介したいと思います。
例えば、CiNii(サイニィと読みます)で論文を検索しようとしても、漠然としたキーワード(交際費・寄附金・移転価格税制・・)を入力すると膨大な検索結果がでてきてしまい、もはやどれから読んだらいいかわからない・・という結果になるのがオチです。
CiNiiはこちらですね。
CiNii Articles - 日本の論文をさがす - 国立情報学研究所
(どの研究分野もそういう傾向はありがちですが)租税法分野で、CiNiiで全文PDFを公開しているのも玉石混交・・というか石ころだら(以下省略され
そこで、まずはお勧めしたいのが税務大学校の「税大論叢」「税大ジャーナル」です。
税大論叢
税大論叢(72〜75号)|研究活動|税務大学校|国税庁
税大ジャーナル
税大ジャーナル|研究活動|税務大学校|国税庁
税務大学校は、国税庁職員の研修機関でありますので、どちらかといいますと国税側に立った研究が多いのですが、税大ジャーナルなどは外部の租税法学者も多数投稿しております。
全文フリーでPDF公開されていますので、まずはこの中から興味を持てそうなのを片っ端から開いて読みます。
次に注記(脚注など)を見ます。いろいろ論文が引用されています。
有名な論文は複数回引用されておりますので、だんだん必読のものがわかってきます。
それを繰り返して範囲を広げて行けるはずです。
この他にも、広大なネットにはフリーで読める質の高い租税法論文が多数転がっていますので、徐々に紹介していきます。
独学者のための租税法研究入門。(その2 学者紹介編①)
第2回です。
租税法学者といえば金子宏名誉教授くらいしか存じ上げておりませんでしたが、世の中にはたくさんの租税法研究者がいらっしゃいます。
何人かご紹介したいと思います。あくまで私が勉強した範囲の中ですので、独断と偏向が混じっているかもしれないことはご容赦いただきたく・・w
- 作者: 中里実,弘中聡浩,渕圭吾,伊藤剛志,吉村政穂
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2011/11/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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研究分野も非常に幅広く、また、学部・大学院初年度くらいのレベルにふさわしい「租税法概説」などの基本書の編集もしております。また、掲示しませんが、西村あさひ法律事務所の実務家弁護士も共著でタックスヘイブン税制や移転価格税制などの最先端の国際課税の実務・判例を扱った本も毎年のように新しく出しております。
中里 実 | 教授・准教授 | 教員 | 概要 | 東京大学法学部・大学院法学政治学研究科
- 作者: 水野忠恒
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2011/04/28
- メディア: 単行本
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水野 忠恒 | 明治大学
中里実教授につらなる租税法学者たちとしては、渕圭吾学習院大教授・増井良啓東京大学教授・浅妻章如立教大教授・吉村政穂一橋大准教授(順不同)などが挙げられます。この方々らが執筆した論文はまずハズレがありませんのでお勧めいたします。
渕圭吾教授
渕 圭吾 教授 | 学習院大学 法科大学院
増井良啓教授
増井良啓のページ
浅妻章如教授
租税法 浅妻章如
吉村政穂准教授
http://www.ics.hit-u.ac.jp/jp/bl/professor/yoshimura.html
それぞれの研究業績はリンク先をご参照ください。
こちらは東京大学の金子宏名誉教授の弟子たちですね。
次回は清永敬二京都大名誉教授、岡村忠生京都大学教授につらなる租税法学者を紹介いたします。
独学者のための租税法研究入門。(その1 導入編)
試行錯誤して回り道をしてしまった自分の轍を踏んで欲しくないので、どれだけニーズがあるかわかりませんが、「独学者のための租税法研究入門」を書いてみます。
なお、「租税法研究入門」であり、税金計算の実務=税務の入門ではありません。こちらを読んでも経理実務・税務実務ができるようにはなりません・・w
租税法の定評ある基本書と言えば金子宏名誉教授「租税法」が挙げられることが多いですが、あれは百科事典のようなものでして、初学者がいきなり手を出してしまうと何がなんだかわからないという結果に終わるかと思います。
私がお勧めしたい最初の1冊はこちら。
佐藤英明慶応大学教授の「プレップ租税法(第2版)」です。
- 作者: 佐藤英明
- 出版社/メーカー: 弘文堂
- 発売日: 2010/12/30
- メディア: 単行本
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まずはこちらで租税法のなんたるかを。会話式でサクサク進み、租税法は税金計算の技術を学ぶだけの退屈な学問という先入観を払ってくれるのではないかと。
こちらを読み終わりましたら、次は増井良啓東京大学教授の「租税法入門」を。
- 作者: 増井良啓
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2014/03/28
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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法学教室に連載されていた記事を加筆修正してまとめたものです。
租税法概論、所得税、法人税が中心ですが、入門書としてはとても「深い」ので、今も繰り返し読み込んでおります。
次回へ続きます。
経済的実態に変更が無い、とは?(繰越欠損金引継について)
繰越欠損金は、原則として発生させた(赤字を計上した)法人のみが使用できるものであり、他の法人へ売却したり、移転させたりすることはできません。
しかし、平成13年にはじまった組織再編税制により、一定の条件(支配関係・みなし共同事業要件。税制適格要件)がある場合は別の法人へ「引き継ぐ」ことができるようになりました。
非常な高収益の企業Xにとっては、多額の税務上の繰越欠損金を有する会社Yは、事業上の価値・必要性がたとえまったくない場合でも、自己(X)の課税所得を圧縮する「手段」として独自の価値を持つ
太田洋「M&A法大全」、商事法務、2001年、P419
適格組織再編においては繰越欠損金の引継が認められるのは、「再編前の法人の資産に対する支配が継続しているから」「株主の投資が継続しているから」「事業が継続しているから」などと説明されます。
この3つのの説明を包括しているのは「経済的実態に変更がないから」とされます。
動きの速い今日においては、欠損金が計上された事業年度の事業内容と、それが繰り越される事業年度における事業はもはやまったく別物であることも考えられます。
それが同一の法人格の内部で営まれている事業であるとしても、であります。
まして、事業は自由に開始したり廃止したりできますし、別の法人から買い入れることも可能です。
ではなぜ、欠損金が繰り越されたり、組織再編成で他の法人へ引き継がれていくのでしょうか。
ヤフー事件東京地裁判決を機会に、いろいろ考えております。
続きます。
本日の参考文献はこちら。
- 作者: 太田 洋,西村総合法律事務所
- 出版社/メーカー: 商事法務研究会
- 発売日: 2001/07
- メディア: 単行本
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- 作者: 武田昌輔
- 出版社/メーカー: 税務経理協会
- 発売日: 1987/09
- メディア: 単行本
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- 作者: 金子宏,佐藤英明,増井良啓,渋谷雅弘
- 出版社/メーカー: 弘文堂
- 発売日: 2013/09/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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租税法入門=簡単というわけではありません。
本日のお題はこちら。
- 作者: 増井良啓
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2014/03/28
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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本書は、租税法入門、とありますが決して簡単な本ではありません。
本書は、経理部に配属された新人が入門書として手に取るべきものではなく、租税法の「考え方」を全体として把握できるように編まれた本であります。
実務に何年も取り組んできてはおりましたが、学問としての租税法は学び始めたばかりの私にとっても、「この規定はこういう意味だったのか!」と気付かされること再三でありました。
章末には、発展した学習のために推薦されるべき本・論文なども掲げられております。
こちらを順に追っていけば、さらに理解が深められるかと。
「俺は税法をしっかり理解している!」と自負されている方でも、ぜひ手にとってお読みいただければ、必ず、何かしら気づきが得られるかと思われます。
繰り返し読み込みたい、名著であります。
「不公正」を許さないためには?
日本の税法体系では、租税回避行為を否認するためには明文の法律の規定が必要であるとされます。
「○○については、損金に算入しない。」という規定(個別否認規定)が存在しなければ、納税者の行為が社会的に不公正だ、と感じられても否認できないというものであります。
同族会社・組織再編・連結納税においては「法人税の額を不当に減少させる場合」行為計算の否認がありますが、これは、「不当に」という不確定概念を用いて、納税者の租税回避を包括的に否認できるという包括否認規定と呼ばれるものがあります。
しかし、包括否認規定も無制限に納税者の行為計算を否認できるわけではなく、「租税回避以外に合理的な事業目的が無い場合」など、かなり限定されているというのが従来の学説・判例でした。
これは、憲法に定める「租税法律主義」の要請によるものであり、租税法律主義の目的(及びその効果)は法的安定性と予測可能性の確保にある、とされます。
しかし、租税回避行為は年々「精巧」になりつつあり、複数の取引を組み合わせて否認規定をかいくぐりるようなことも。
ドイツでは、契約自由・私的自治の原則を濫用することによって租税回避を行うことを否認する「一般否認規定」が存在します。
「租税法律は、法の形成可能性の濫用によってこれを回避することはできない・・濫用は、不相当な法的形成が選択され・・納税者又は第三者に法律上想定されていない租税利益がもたらされる場合・・存在しないものとする」(ドイツ租税通則法42条)
日本の租税法には、これと同様な一般否認規定は存在しません。
昭和30年代の税制調査会で、国税通則法が制定される際に次のような提案がなされましたが、激しい反対にあい、法には盛り込まれませんでした。
税法の解釈及び課税要件事実の判断については各税法の目的に従い、租税負担の公平を図るようそれらの経済的意義及び実質に則して行うものとする趣旨の原則規定を設ける
社会も経済取引もシンプルであった昭和30年代に比べれば、「不公正」な手段により税を逃れようとする存在の手段は比較できないほど多様になっています。
何をもって「不公正だ」とし、それを許さないのか。
複雑な組織再編の判決文を読み、考えているのであります。
本日の参考文献はこちら。
- 作者: 増井良啓
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2014/03/28
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- 出版社/メーカー: 中央経済社
- 発売日: 2014/06/05
- メディア: 雑誌
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読書ノート 水野忠恒「租税法 第5版」その2。
続きです。
- 作者: 水野忠恒
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2011/04/28
- メディア: 単行本
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「必要経費の規定が存在しない限り、粗収入や総所得に対する課税はむしろ消費課税に近づく・・所得税として位置付けるなら最小限度の投下資本の回収部分を控除することが必要」p247
— すらたろう (@sura_taro) 2014, 5月 3
「必要経費の内容をどう定めるかは法律の規定の範囲」(立法政策の問題であり、理論的に必要経費の範囲であっても必須では無い)
— すらたろう (@sura_taro) 2014, 5月 3
必要経費=(一般的・客観的な)「事業との関連性」のみ。本邦の法令では金額の合理性についての規定は無い。米国では必要経費について「通常かつ必要」ordinary and necesary expenses
— すらたろう (@sura_taro) 2014, 5月 3
「大企業について、国税当局が必要経費に該当する項目について「適正な金額」を判断できるのか。」p252 商事法では経営判断の原則というのがありまして、これは難しそう
— すらたろう (@sura_taro) 2014, 5月 3
所得税のリスクに対する中立性。「損失は事業や投資に係るコストである。損失の通算を認めないならば、事業や投資におけるリスクについての意思決定が中立的でなくなるとされる」p267
— すらたろう (@sura_taro) 2014, 5月 3
p270「譲渡所得は期間損益ではないので、暦年での課税を前提とする損益通算にはなじみにくい」ふむふむ
— すらたろう (@sura_taro) 2014, 5月 3
所得税は消費税と異なる税と思われていますが、実は所得と消費は同じものを別な面からみたものということがわかってきました。
続きます。