すらすら租税法研究ノート。

租税法に関する勉強と思考を書きます。

「不公正」を許さないためには?

日本の税法体系では、租税回避行為を否認するためには明文の法律の規定が必要であるとされます。
「○○については、損金に算入しない。」という規定(個別否認規定)が存在しなければ、納税者の行為が社会的に不公正だ、と感じられても否認できないというものであります。
同族会社・組織再編・連結納税においては「法人税の額を不当に減少させる場合」行為計算の否認がありますが、これは、「不当に」という不確定概念を用いて、納税者の租税回避を包括的に否認できるという包括否認規定と呼ばれるものがあります。
しかし、包括否認規定も無制限に納税者の行為計算を否認できるわけではなく、「租税回避以外に合理的な事業目的が無い場合」など、かなり限定されているというのが従来の学説・判例でした。


これは、憲法に定める「租税法律主義」の要請によるものであり、租税法律主義の目的(及びその効果)は法的安定性と予測可能性の確保にある、とされます。


しかし、租税回避行為は年々「精巧」になりつつあり、複数の取引を組み合わせて否認規定をかいくぐりるようなことも。


ドイツでは、契約自由・私的自治の原則を濫用することによって租税回避を行うことを否認する「一般否認規定」が存在します。

「租税法律は、法の形成可能性の濫用によってこれを回避することはできない・・濫用は、不相当な法的形成が選択され・・納税者又は第三者に法律上想定されていない租税利益がもたらされる場合・・存在しないものとする」(ドイツ租税通則法42条)


日本の租税法には、これと同様な一般否認規定は存在しません。
昭和30年代の税制調査会で、国税通則法が制定される際に次のような提案がなされましたが、激しい反対にあい、法には盛り込まれませんでした。

税法の解釈及び課税要件事実の判断については各税法の目的に従い、租税負担の公平を図るようそれらの経済的意義及び実質に則して行うものとする趣旨の原則規定を設ける

社会も経済取引もシンプルであった昭和30年代に比べれば、「不公正」な手段により税を逃れようとする存在の手段は比較できないほど多様になっています。


何をもって「不公正だ」とし、それを許さないのか。
複雑な組織再編の判決文を読み、考えているのであります。


本日の参考文献はこちら。

租税法入門 (法学教室ライブラリィ)

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税務弘報 2014年 07月号 [雑誌]

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