租税法と私法、予測可能性のお話。(その1)
課税は基本的に経済的取引に何らかの「担税力」を見出して行われる。経済的主体は、その取引にいかなる課税が行われるのか事前に知ることができなければ、取引を安心して行うことができない。経済的取引と私法、租税法はどのような関係にあるだろうか。以下で説明する。
私法は取引法であり、その契約が当事者にどのような権利義務関係を生じさせるか定められている。経済的取引はあたっては、私的自治の原則・契約自由の原則により、公序良俗に反しない限り、取引の当事者間でどのような契約を結ぼうとも自由である。民法・会社法などの私法は「裁判規範」であり、当事者間で債務不履行などの契約に反すること等が起きた場合に、裁判所によって判断してもらうために基準である。
租税法は、納税者と税務官庁に直接向けられており、「行為規範」である。納税者は租税法に定められた通りに納税しなければならず、税務官庁は租税法に定められた通りに税を徴収しなければならない。しかも、納税者は税務申告を義務付けられており、申告しなければならないときに、租税法を読んでもどう申告すればよいかわからず、裁判所に行って初めて何が租税法の解釈として正しいか判明するというのでは、租税法は行為規範として機能しない。*1
経済的取引を行う前に常に課税上の効果を考える必要があることから、租税法は行為規範であるとともに、民法や会社法と同様に取引法である性格も有している。行為規範としての租税法も、取引法としての租税法も、納税者にとって予測可能性の確保こそが市場での経済取引が円滑に行われるための基本であるからである。*2
社会の富は経済的取引により生み出され、自由な取引が阻害されれば経済活動が滞ることすら考えられる。特に、今日の経済活動の重要な部分は法人組織により行われていることから、法人税法の課税要件が納税者にとってじゅうぶんに予測可能性が高いものであることが必要である。
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